この記事では、エンジャーさんよりPDN視点のパスコンの選び方について解説します。

 

推奨回路の欠点

データシートの推奨どおりにパスコンの構成を組んだ回路でも、EMC試験で特定の周波数だけノイズレベルが限度値を超えてしまうことがあります。
ICのデータシートには電源端子に0.1μFのパスコンを複数個並列で配置し、10μF級の大容量コンデンサを1個追加するという典型的な推奨回路が示されており、実際の製品設計でもこの構成がよく踏襲されます(図1)。

典型的なデカップリング回路例

図1 典型的なデカップリング回路例

この推奨回路は半導体メーカのリファレンスにすぎず、自分の回路の動作条件に最適とは限りません。そしてコンデンサは周波数特性を持つため、推奨回路でもインピーダンスが上昇する帯域はどこかに残ります。そこに負荷ICの過渡電流の周波数成分が重なると、その帯域の電源リップルが増えてノイズ問題として現れます。

現場の実態

わたしもこれまで多くの現場で、データシート推奨回路をそのまま採用している設計に遭遇しましたが、根拠を答えられる設計者はほとんどいませんでした。これではEMC試験で問題が出たときに、トラブルが長期化するリスクが高まります。そのため推奨回路を絶対視する姿勢から、自分の回路の動作条件に立ち戻って構成を見直す姿勢への転換が、重要になります。

 

PDN全体で現れる反共振

推奨回路を採用した設計でも、EMC試験で特定周波数のノイズが残ることがあります。その主要な原因の1つが反共振です。反共振はインピーダンスが極大となる周波数のことで、コンデンサというデバイス単体ではなく、配線・GNDプレーン・パスコン群を含む電源供給システム全体のインピーダンス周波数特性として現れます。電源供給システム全体で見ると、インピーダンス特性は共振(極小)と反共振(極大)を交互に繰り返しながら変動します(図2)。

PDNの反共振
図2 PDNの反共振

この電源供給システム全体を、PDN(Power Delivery Network)と呼びます。電源ICから負荷ICまでの以下の要素を1つの回路網として扱う見方です。

  • 配線パターンの寄生インダクタンス
  • GNDプレーンの寄生成分
  • 複数のパスコン

共振の極小点はコンデンサ単体の自己共振周波数に対応し、自己共振周波数より高い周波数でPDNとして組み合わさったときに立ち上がるピークが反共振です。
ここで重要なのは、コンデンサ選定をデバイス単体ではなくPDN全体の周波数特性で判断する視点です。デバイス単体だけ確認しても、PDNとして組み上げたときの反共振ピークは見つかりません。PDN全体で周波数特性を捉えるこの視点が、推奨回路に頼らず自分の回路で設計判断するための土台になります。

 

ターゲットインピーダンス

反共振ピークがどの程度の悪さをするかを判定する物差しが、ターゲットインピーダンスです。

定義と計算例

ターゲットインピーダンスはPDN全体に対して周波数ごとに抑えるべきインピーダンス上限を見立てる設計指標で、許容リップル電圧 ΔV と過渡電流 ΔI から決まります。

計算式

ΔV はICベンダのPDNガイドに規定があればそれを採用し、なければ電源電圧の±5%を業界の経験則として用います。ΔIも同様で、データシートに最大過渡電流の明示があれば採用し、なければ動作消費電流の半分を最大過渡電流とみなします。1V電源・許容変動±50mV・過渡電流5Aの場合、目標値は次のように決まります。

計算式

電源電圧が下がるか過渡電流が増えるほど、目標値はさらに小さくなります。

折れ線型ターゲット曲線

ここで重要なのは、ターゲットインピーダンスは周波数によって値が変わる、という点です。負荷ICの過渡電流は立ち上がり時間 trで決まる周波数成分を持ち、ニー周波数より低い帯域では概ね一定、ニー周波数より高い帯域では20dB/decadeで減衰します。ニー周波数は次の式で見積もります。

計算式

ニー周波数より高い帯域では過渡電流が小さくなる分、許容できるターゲットインピーダンスは逆に大きくなります。結果としてターゲット曲線は、ニー周波数を境に水平から20dB/decadeの右上がりへと切り替わる折れ線になります(図3)。

折れ線型ターゲットインピーダンス曲線
図3 折れ線型ターゲットインピーダンス曲線

このターゲット曲線は、反共振ピークがこれを超えるかどうかで設計の妥当性を判定する物差しになります。ノイズ問題と動作不良に直接関係はないため、ターゲット曲線を超えたからと言って直ちに動作不良につながるわけではありませんが、実用上は全帯域でターゲット曲線を下回ることを目指すとよいです。

 

並列接続の限界と反共振

推奨回路で典型的に用いられる同種並列の構成では、PDNのインピーダンスがターゲットインピーダンスを上回る可能性があります。

同種並列の限界

同種のパスコンを並列に増やすと、合成静電容量はN倍、合成ESLは1/Nになります。自己共振周波数は次の式で決まります。

計算式
静電容量のN倍とESLの1/N倍が打ち消し合うので、合成ESLと合成静電容量の積(自己共振周波数)はコンデンサ1つのときと同じです。

同種多数並列の合成インピーダンス周波数特性
図4 同種多数並列の合成インピーダンス周波数特性

つまり、並列接続によってインピーダンス特性は相似形のまま全体が下方シフトするだけで、反共振によるピークの発生を抑制できるわけではありません。したがって折れ線型ターゲット曲線と重ねて描くと、自己共振周波数から離れた帯域では曲線を下回れない領域が必ず残ります。

 

異種並列で発生する反共振

推奨回路で採用されているような同種並列の限界を超えるため、自己共振周波数の異なるコンデンサを組み合わせます。それぞれが別の帯域でインピーダンスを下げる役割を担うことで、広帯域でターゲット曲線を下回ることが期待できる手法です。

異種並列のインピーダンス周波数特性
図5 異種並列のインピーダンス周波数特性

反共振ピークの周波数位置と大きさは、容量比で決まります。容量比1:10では両者の自己共振周波数が比較的近いため、ピークは幅が狭く、大きさも小さくなります。一方、推奨回路でよく見られる10μFと0.1μFの組み合わせは容量比1:100にあたり、両者の自己共振周波数の離れが大きいため、両者の間に幅広く大きなピークが立ち上がりやすいです(図6)。

実害判定の物差し

反共振ピークが立ち上がっても、すべてが実害になるとは限りません。実害を判定する物差しは2つあります。

  • 折れ線型ターゲット曲線を超えるかどうか
  • ICのクロック高調波と一致するかどうか

1つ目の物差しでは、ピークの大きさが折れ線型ターゲット曲線を超えるかどうかを見ます。高周波ではターゲット曲線自体が20dB/decadeで上昇するため、見かけ上の絶対値が大きくても許容範囲のことがあります。
2つ目の物差しでは、ピーク周波数がICのクロック高調波と一致するかどうかを見ます。一致すればその周波数で電源電圧変動が増大し、EMC試験で不合格になります。一致しなければ、多少のピークは許容範囲と判断できます。

 

種類選定の判断軸

並列接続でコンデンサを組み合わせると、ある帯域で反共振ピークが立ち上がります。このピークを抑えつつ広帯域でターゲット曲線を下回るには、複数のコンデンサの選定と組み合わせを工夫する必要があります。判断軸は次の2つです。

  • 容量比:反共振ピークの大きさと位置を決め、広帯域で合成インピーダンスを下げる鍵
  • コンデンサの種類:容量比に従って、各帯域で必要な静電容量と性能を実現する手段

検討の順序は、まず容量比でコンデンサの組み合わせを決め、それに合わせてコンデンサの種類を割り当てます。

容量比

容量比は、広帯域カバーと反共振ピーク抑制を両立させる主要な手段です。必要帯域を3〜5段階に分け、静電容量を1:3〜1:10の比で並べると、反共振ピークが複数の狭い帯域に分散し、いずれも大きさが抑えられます。たとえば10μFと0.1μFしかない構成(容量比1:100)に1μFを加えれば(1:10:100の3段)、大きなピーク1つが小さなピーク2つに分散します。

コンデンサ種類の選び方

容量比で決めた各静電容量に対して、それを実現できるコンデンサの種類が物理的に決まります。コンデンサの種類によって実現可能な静電容量レンジと、その静電容量における自己共振周波数の位置が異なるためです(表1)。

種類 レンジ 特徴・配置
アルミ電解コンデンサ 数十~数百 μF バルク役。電源IC近くに配置。実効担当は ~100kHz
ポリマー電解コンデンサ 数 μF~数十 μF 中域の下支え。実効担当は100kHz~数MHz
MLCC(X7Rなど中容量品) 0.1~数 μF 汎用デカップリング。実効担当は数MHz~数十MHz
小型MLCC(C0G/0402・0201) 数pF~数nF 高周波担当。IC直近に配置。実効担当は数十MHz~数百MHz

表1 静電容量レンジとコンデンサ種類の対応

たとえば10μFを実現する場合、ポリマー電解コンデンサとMLCC(X7R)のどちらでも可能ですが、それぞれ自己共振周波数の位置が異なるため、担当させたい帯域に応じて選びます。高周波側ほど小型・低ESL品が必要で、特に最も小さい静電容量を担当するコンデンサはIC直近に配置するのが要点です。

判断フロー

コンデンサ選定の判断フローは次の通りです。

  1. ターゲットインピーダンスを求める
  2. 折れ線型ターゲット曲線を描く
  3. 容量比を決める
  4. コンデンサの種類を選ぶ

この判断フローを通すと、データシート推奨回路を絶対視する姿勢から、自分のPDNに合わせて構成を組み立てる姿勢へと転換できます。