この記事では、エンジャーさんよりインダクタとコモンモードチョークコイルのDC重畳特性について測定します。

 

DC重畳測定のセットアップ

ここではVNAとバイアスTを組み合わせて、インダクタに直流電流を流しながらインダクタンスを測定します。

測定法とバイアスT回路

バイアスT回路は、RF測定系にDC電流を重畳するための回路です。インダクタ(RFブロック用)とコンデンサ(DCブロック用)で構成され、VNA側・DUT側・DC電源側の3端子を持ちます。

測定セットアップ

図1 測定セットアップ

バイアスT回路

図2 バイアスT回路

DC電源からのDC電流はインダクタを通じてDUTに流れます。VNA側にはコンデンサでDC成分が遮断されたRF信号だけが到達します。
インピーダンス測定はVNAを使ってSパラメータ法のシリーズスルー法で実施します。インピーダンスの算出式は以下の通りです。

数式


測定対象物(DUT)

今回の測定対象物(DUT)はメタル系トロイダルインダクタ(100 µH)、フェライト系トロイダルインダクタ(10 mH・緑コア)、コモンモードチョークコイル(CMC・EE型ボビン)の3種類です。

DUT外観(左:メタル系、中央:フェライト系、右:CMC)

図3 DUT外観(左:メタル系、中央:フェライト系、右:CMC)

 

バイアスT回路の影響

DC重畳測定において、注意すべきポイントはバイアス回路がインピーダンス測定に与える影響です。
今回のバイアスT回路は、300uH程度の空芯コイルを2つDUTと並列に接続しています。またDC電源や配線にも幾分かのインダクタンスが存在し、測定系全体で1mH程度のインダクタンスがDUTに並列接続された構成になっています。
ここでDUTのインダクタンスが並列接続された測定系のインダクタンスよりも十分小さければ、合成インピーダンスはDUT単体からほとんど変化しません。これは抵抗の並列回路による合成抵抗と全く同じ原理です。一方で測定系のインダクタンスよりもDUTのインダクタンスが同程度、または大きければ、合成インピーダンスは測定系のインピーダンスに引きずられます。
ここでは実際にメタル系(100 µH)とフェライト系(10 mH)の2種類で、バイアスT回路の有無による差を確認してみます。

メタル系の場合

公称値が100uHのメタル系インダクタの場合、1MHzにおいてバイアス回路なしで83.2 µH、バイアス回路ありで73.8 µHとなります。その差は約11%で影響がゼロとは言えませんが、多くの場面で許容可能な水準といえます。

メタル系インダクタのバイアスT有無比較

図4 メタル系インダクタのバイアスT有無比較

これは測定系のインダクタンス(約1 mH)に対して、DUTのインダクタンス100 µHが相対的に小さいためです。

フェライト系の場合

公称値が10mHのフェライト系インダクタの場合、100kHzにおいてバイアス回路なしで約8 mHに対し、バイアス回路ありでは約0.8 mHまで下がります。その差は約10倍と非常に大きいです。

フェライト系インダクタのバイアスT有無比較

図5 フェライト系インダクタのバイアスT有無比較

この理由はDUTのインダクタンス10 mHが測定系のインダクタンス(約1 mH)よりも非常に大きいためで、測定値は空芯コイルのインダクタンス付近で頭打ちになります。つまりフェライト系インダクタの特性を正しく評価できていないということです。
そのためフェライト系インダクタの測定においては、DC重畳なしのインダクタンスについてはあくまでも参考とし、そこからの低下率のみに焦点を当てる必要があることになります。そのため以降の測定結果は、バイアスT込みの0 Aからの低下率で評価します。

コア材質による飽和の違い

2種類のインダクタにバイアス電流を段階的に流して、インダクタンスの変化の仕方がコア材質でどれだけ異なるかを比較してみます。

メタル系インダクタの特性変化

メタル系インダクタに対してはバイアス電流を0 Aから5 Aまで印加して、インダクタンスを測定します。

メタル系インダクタのDC重畳特性

図6 メタル系インダクタのDC重畳特性

このグラフは横軸が周波数、縦軸がインダクタンスで示されています。インダクタンスには周波数特性がありますが、全体的な傾向としてバイアス電流が大きくなるにつれて、インダクタンスが低下する傾向が確認できます。
具体的には、0 Aではインダクタンスのピーク付近で約130〜150 µHを示しているのに対して、1 Aでは約100 µH、5 Aでは約20 µHまで低下します。
メタル系インダクタのDC重畳特性として特徴的なのは、インダクタンス低下が緩やかな点です。電流を増やしてもインダクタンスが一気に低下することはなく、全体が一様に下がっていきます。これはメタル系インダクタのコアが緩やかに磁気飽和する特性を持っているためです。

フェライト系インダクタの特性変化

フェライト系インダクタにも同じくバイアス電流を流してインダクタンスを測定してみます。ここでは0 A時の約0.8 mHからの変化に着目します。

フェライト系インダクタのDC重畳特性

図7 フェライト系インダクタのDC重畳特性

メタル系との大きな違いとして、フェライト系インダクタは50mA程度のわずかな電流であっても、インダクタンスが一気に低下する様子が確認できます。またバイアス電流が100mA、200mA、300mAと段階的に大きくなると、インダクタンスは急激に低下し、5Aまで流すとインダクタンスは2μH@1MHz 程度まで低下します。これはバイアス0Aと比較すると 1/500程度です。
メタル系は緩やかに磁気飽和していたのに対して、フェライト系インダクタのコアは急激に磁気飽和する特性を持っているため、わずかな電流でも急激にインダクタンスが低下します。この結果から、両者の性質が全く異なることがわかります。
なおフェライト系の測定結果の中で、バイアス電流が高い条件でグラフに共振的な凹凸が多いのは、インダクタンスが極端に小さくなり測定系の影響が顕著になるためです。

飽和挙動の違いと選定への影響

メタル系は電流増加に対してインダクタンスが緩やかに低下し、フェライト系は急峻に低下します。この磁気飽和の仕方の違いは、電源用インダクタの選定において重要な判断材料になります。
メタル系は緩やかに飽和するため、使用電流域でのインダクタンスの残り方が予測しやすいです。一方でフェライト系は急激に飽和するため、定格付近でのインダクタンスの算出は難しくなります。
そのため実務での部品選定においては、データシートの直流重畳特性グラフを確認し、使用電流でのインダクタンス低下率を把握することが大切になります。

CMCのモード別直流重畳特性

電源用インダクタに続いて、公称40 mHのコモンモードチョークコイル(CMC)にも同じDC重畳測定を行います。
CMCのコアには、差動電流に対して磁束が相殺される性質があります。コモンモード方向にDC電流を流せばコアは磁気飽和しますが、ディファレンシャルモード方向であればコアは磁気飽和しません。この違いが実測データにどう現れるかを確認してみます。

モード別の比較

コモンモード方向では0 Aから1 Aまで段階的にバイアス電流を印加し、ディファレンシャルモード方向では1 Aの条件で測定しました。

CMCのDC重畳特性(コモンモード/ディファレンシャルモード)
図8 CMCのDC重畳特性(コモンモード/ディファレンシャルモード)

このグラフにはコモンモード方向のバイアス条件(0 A〜1 Aの7条件)と、ディファレンシャルモード方向のバイアス条件(1 A)が描画されています。
コモンモード方向の条件では0 A・10 mAは約1 mH付近でほぼ重なっていますが、50 mAを超えると一気にインダクタンスが低下していきます。バイアス電流が増えるごとにインダクタンスの低下は進み、フェライト系インダクタと同様に急激に磁気飽和する傾向が確認できます。
一方で差動バイアス1 Aはコモンモード0 Aよりもはるかに高いインダクタンスを示しており、バイアス電流によるインダクタンスの低下は見られません。差動電流では2つの巻線が作る磁束が互いに打ち消し合うため、コア内部の磁束密度に変化がなく、インダクタンスも変化しないということです。なお差動バイアスの絶対値がコモンモード0 Aよりも大幅に高いのは、接続方法の違いによりバイアスT回路の影響が変わったためです。
今回の測定結果は、電源ラインにCMCを挿入する設計で実務的な意味を持ちます。電源ラインには負荷電流が常に流れているため、CMCには定常的にディファレンシャルモードの電流が印加されます。ただしこの負荷電流はCMCのインダクタンスには全く影響を与えないため、ノイズ対策においてはデータシートのインダクタンスを参考にしてフィルタ回路を設計することができます。


デモ機レンタルサービス
https://tm-co.co.jp/contact/


© 2025 T&Mコーポレーション株式会社

関連製品