この記事では、エンジャーさんよりテスタの表示値と真の値のズレについて解説します。

 

負荷効果と入力インピーダンス

テスタの表示値には真の値からズレる2つの要素があります。一つは測定対象との相互作用、もう一つはテスタ内部での信号の変換です。

負荷効果の発生原因

このうち測定対象との相互作用で生じるズレを、負荷効果と呼びます。
負荷効果とは測定対象の回路に計測器をつなぐことで、読み値が真の値より低下する現象のことです。
テスタは電圧を測定するときに、測定対象に対して有限の抵抗を接続します。この抵抗は計測器の入力インピーダンスと呼びます。
直流電圧測定(DCV) では入力インピーダンスの実体はほぼ純抵抗として扱え、OWON製 B41T+ の電圧レンジでは 10MΩ となります。
一方で測定対象となる回路側にも、テスタから見た抵抗があります。
電圧源と抵抗でできた回路なら、どれだけ複雑でも、ある 2 点から見た振る舞いは 1 つの電圧源と 1 つの直列抵抗の組に置き換えられます(テブナンの定理)。この置き換え後の直列抵抗が、測定点から見た回路の出力インピーダンスです。つまりテスタから見れば、どんな測定対象も「電圧源+出力インピーダンス」という単純な形になります。
たとえば 2 本の抵抗で作った分圧回路なら、出力インピーダンスはその 2 本の並列合成で見積もれます。
この回路にテスタを接続すると、回路の出力インピーダンスとテスタの入力インピーダンスが直列に接続された分圧回路が構成されます(図1)。そしてテスタの読み値は、入力インピーダンスにかかる電圧となるため真の値より必ず低くなります。

負荷効果の分圧模式図

 図1 負荷効果の分圧模式図

この読み値の低下がどの程度になるかは、2 つのインピーダンスの比によって決まります。

読み値低下の目安

回路の出力インピーダンスを 、テスタの入力インピーダンスを Zin  、表示値を Vdisp 、真の値を Vtrue とすると、次の関係になります。

数式

たとえばテスタの入力インピーダンスが 10MΩ、回路の出力インピーダンスが 100kΩ なら、表示値は真の値の 0.990 倍となり、読み値は真の値より約 1% 低くなります。
ここで入力インピーダンスが 10MΩ の場合の、出力インピーダンスごとの読み値の低下率は次のとおりです。

出力インピーダンスと読み値の低下(入力インピーダンス 10MΩ)

表1 出力インピーダンスと読み値の低下(入力インピーダンス 10MΩ)

出力インピーダンスが入力インピーダンスの 1/1000(10kΩ)までなら、読み値の低下は 0.1% 以下で無視できます。一方で 1/100(100kΩ)で約 1%、1/10(1MΩ)では約 9% に達し、ここまで誤差が大きくなると無視できなくなります。
このように読み値の低下率は 2 つのインピーダンスの比だけで決まり、目安としてこの比が 1% を超えるあたりから注意が必要になります。
この出力インピーダンスが 100kΩ 級になり得る回路として、たとえば次のようなものがあります。

  • ADC 入力の分圧回路:100kΩ〜1MΩ
  • センサ出力の分圧:10k〜100kΩ、高インピーダンスセンサでは MΩ 級
  • MOSFET のゲート周りのバイアス:100kΩ〜1MΩ

このような回路はもちろん、その他の回路においても常に測定対象となる回路の出力インピーダンスがテスタの入力インピーダンスに対してどの程度なのかを把握しておくことが大切です。

実効値と平均値整流式

交流電圧測定(ACV)では、同じ信号を測定しても計測器によって表示が合わないことがあります。この表示のズレを生むのが、真の値からズレるもう一つの要素、テスタ内部での信号変換です。

平均値整流式と波形率

テスタの ACV は、交流の大きさを実効値(RMS)で表示します。
ただし多くのテスタは、この実効値そのものを測定してはいません。特にエントリークラスの機種で広く使われているのが平均値整流式です。
平均値整流式とは、整流した波形の平均値から実効値に換算する信号処理です。具体的には平均値(整流平均)を一律に 1.111 倍した値が実効値として表示されます。
この 1.111 という係数の由来となるのが波形率で、これは実効値が整流平均の何倍かを表す比のことです。
実際に正弦波の波形率を計算してみます。正弦波の振幅を Vp とすると、実効値 Vrms と整流平均 Vavg は次の値になります。

数式

 

この 2 つの比が正弦波の波形率です。

数式

 

これは振幅が何ボルトであっても、正弦波である限りこの比は 1.111 で変わりません。
ただしこの換算は、測定対象が正弦波であることを前提にしています。そのため波形が正弦波から外れると、波形率のズレの分だけ表示値も実効値から外れます。

非正弦波での表示値のズレ

波形率が 1.111 より小さい波形では表示値は実効値より高く、1.111 より大きい波形では低く出ます。
両極性の矩形波を整流すると、どの瞬間も振幅と同じ大きさになります。このため実効値と整流平均がどちらも振幅と一致し、波形率は 1.000 です。
このとき表示値は 1.111/1.000 倍、つまり実効値より約 11%(+11.1%)高く出ます。
一方で対称な三角波の波形率は 1.1547 です。表示値は 1.111/1.1547=0.962 倍となり、実効値より約 4%(−3.8%)低く出ます。
このように同じ実効値の信号でも、波形が正弦波から外れるだけで、表示値は高い側にも低い側にもズレます(図2)。

波形別の実効値と平均値整流式の表示値の比較

図2 波形別の実効値と平均値整流式の表示値の比較

波形ごとの波形率と表示値のズレは次のとおりです。

波形率と平均値整流式の表示値のズレ

表2 波形率と平均値整流式の表示値のズレ

一方で実効値をそのまま計算して表示する方式は True RMS 式と呼ばれ、対応する機種は仕様書に True RMS と明記されます。
正弦波以外の波形を測定する場合は、手元のテスタがどちらの方式かを仕様書で確認してください。True RMS の明記がなければ、平均値整流式とみなして扱うのが安全です。

True RMS の適用条件

True RMS 式のテスタであれば、波形率によらず実効値を直接測定できます。ただし True RMS 式にも、表示値が実効値からズレる条件が残ります。

結合方式とDC分

True RMS 式でも残る条件の一つが、入力の結合方式です。
ハンドヘルドのテスタの ACV は、一般に AC 結合で信号を取り込みます。AC 結合とは、コンデンサを介して入力から DC 分を取り除き、AC 成分だけを測定する方式のことです。
ここでロジック波形や PWM のような片極性の波形では、DC 成分がカットされて、表示値は AC 成分だけの実効値になります。
そのため波形全体の実効値を求めるには、ACV で測った AC 分の実効値 VAC と、DCV で測った DC 分 VDC から合成する処理が必要になります。

数式

なお平均値整流式のテスタで PWM を測ると、DC 分の欠落に加えて、デューティ比(オン時間の割合)によって表示値のズレの大きさと符号が変わります。このため表示値から実効値を見積もることは現実的ではありません。

帯域と波高率

もう一つの条件が帯域です。ACV の確度が保証されるのは仕様書に記載された周波数範囲だけで、True RMS 対応の B41T+ でも 40Hz〜10kHz です。
この帯域より高い周波数成分は、表示に正しく反映されません。矩形波や PWM は高次の高調波を含むため、True RMS 式でも波形によっては帯域由来のズレが生じます。
また波形の尖り具合を表す値が波高率(ピーク値÷実効値)で、True RMS 式が正しく測れる波高率には一般に上限があります。ただしこの上限は仕様書に載らないことがあり、載っていなければピークの尖った波形では表示値を過信しない、という扱いになります。

True RMS 式でズレが生じる条件

表3 True RMS 式でズレが生じる条件

仕様書で確かめられるのは入力インピーダンスと ACV の測り方までで、最後は測定対象の出力インピーダンスと波形(DC 分・周波数成分)との突き合わせになります。そこまで済ませておけば、表示値が変なときも故障より先に測定の条件を疑えるようになります。


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