入力抵抗と入力容量とは?プローブが回路に与える影響
オシロスコープ用プローブを測定ポイントへ接続すると、プローブの入力抵抗と入力容量が回路へ追加されます。
この影響を「プローブ負荷」と呼びます。プローブ負荷が大きい場合、測定している波形が変化するだけでなく、測定対象の回路動作そのものが変わる可能性があります。
ここでは、プローブの入力抵抗、入力容量、入力インピーダンスの意味、周波数による変化、測定誤差を抑える方法について解説します。
■入力抵抗とは
入力抵抗は、プローブ先端から見た直流または低周波における抵抗値です。
代表的な入力抵抗には以下があります。
・ 1:1パッシブプローブ:約1MΩ
・ 10:1パッシブプローブ:約10MΩ
・ アクティブプローブ:数十kΩから数MΩ
・ 高電圧プローブ:数十MΩから数百MΩ
入力抵抗が高いほど、測定対象からプローブへ流れ込む電流が小さくなり、低周波における回路への負荷を抑えられます。
ただし、入力抵抗の値だけでは、高周波信号に対するプローブ負荷を判断できません。
■入力容量とは
入力容量は、プローブ先端とグランド間に存在する等価的な静電容量です。
入力容量には、以下の要素が含まれます。
・ プローブチップの容量
・ プローブ内部回路の容量
・ プローブケーブルの容量
・ オシロスコープの入力容量
・ 接続アクセサリの寄生容量
・ 測定ポイント周辺の寄生容量
入力容量が大きいほど、高周波信号に対する負荷が大きくなります。
代表的な入力容量は、一般的なパッシブプローブで数pFから数十pF、広帯域アクティブプローブでは1pF以下となる場合があります。
■入力インピーダンスとは
入力インピーダンスは、プローブが測定対象へ与える電気的な負荷を、抵抗成分と容量成分を含めて表したものです。
プローブの仕様では、以下のように表記されます。
10MΩ || 10pF
「||」は並列接続を意味します。この場合、入力抵抗10MΩと入力容量10pFが並列に接続された等価回路として表されています。
直流や低周波では抵抗成分が支配的ですが、周波数が高くなると容量成分の影響が大きくなります。
■入力容量のインピーダンス
コンデンサのインピーダンスは、周波数が高くなるほど低くなります。
容量性リアクタンスは、以下の式で求められます。
容量性リアクタンス=1÷(2π×周波数×容量)
式で表すと以下のようになります。
Xc=1÷(2πfC)
例えば、入力容量10pFの場合、容量性リアクタンスの概算値は以下の通りです。
・ 1kHz:約15.9MΩ
・ 100kHz:約159kΩ
・ 1MHz:約15.9kΩ
・ 10MHz:約1.59kΩ
・ 100MHz:約159Ω
入力抵抗が10MΩであっても、100MHzでは10pFの入力容量が約159Ωに相当します。
このように、高周波では入力抵抗より入力容量の影響が支配的になります。
なお、実際の広帯域プローブは分布定数回路として動作するため、単純なRC等価回路だけでは高周波特性を完全には表せません。この計算はプローブ負荷を理解するための近似です。
■プローブ負荷とは
プローブ負荷とは、プローブを接続したことで測定対象の電圧、電流、周波数特性、動作状態などが変化する現象です。
理想的なプローブは、測定対象へまったく影響を与えません。しかし、実際のプローブには有限の入力抵抗と入力容量があるため、必ず一定の負荷が加わります。
代表的なプローブ負荷の影響は以下の通りです。
・ 信号振幅が低下する
・ 直流電圧が変化する
・ 立上り時間が遅くなる
・ 立下り時間が遅くなる
・ 発振周波数が変化する
・ リンギングやオーバーシュートが変化する
・ 回路の動作タイミングが変わる
・ 発振回路が停止する
・ 不安定だった回路が一時的に安定する
「プローブを接続したときだけ正常に動作する」または「プローブを接続すると不具合が発生する」という現象は、プローブ負荷が原因である可能性があります。
■抵抗性負荷による電圧低下
測定対象に出力抵抗がある場合、プローブの入力抵抗と分圧回路を形成します。
例えば、測定対象の出力抵抗が1MΩで、入力抵抗1MΩの1:1プローブを接続した場合、測定ポイントの電圧は理想的には元の約半分になります。
この場合、入力抵抗10MΩの10:1プローブを使用すると、電圧低下を小さくできます。
抵抗性負荷の影響は、以下の回路で特に大きくなります。
・ 高抵抗の分圧回路
・ 高インピーダンスセンサ
・ バイアス回路
・ フォトダイオード回路
・ 微小電流回路
・ 高抵抗フィードバック回路
直流や低周波測定では、プローブの入力抵抗が測定対象の出力抵抗より十分に高いことを確認します。
■容量性負荷による立上り時間の変化
測定対象の出力抵抗をR、プローブを含む負荷容量をCとすると、RC時定数によって信号の立上り時間が遅くなります。
単純な1次RC回路では、10%から90%までの立上り時間を以下の式で概算できます。
立上り時間≒2.2RC
例えば、出力抵抗1kΩの回路へ入力容量10pFのプローブを接続した場合、プローブによって追加される立上り時間は概算で以下のようになります。
2.2×1kΩ×10pF=22ns
この負荷は、高速デジタル信号の測定では無視できない場合があります。
同じ回路へ入力容量1pFのアクティブプローブを接続した場合、追加される立上り時間は概算で2.2nsとなります。
■1:1プローブの入力負荷
1:1パッシブプローブは入力信号を減衰させないため、微小信号を観測しやすいという利点があります。
一方で、一般的に入力容量が大きく、周波数帯域も狭い傾向があります。
1:1プローブの代表的な入力特性は以下の通りです。
・ 入力抵抗:約1MΩ
・ 入力容量:数十pFから100pF程度
・ 周波数帯域:数MHzから数十MHz程度
低周波の微小信号には適していますが、高速信号や高インピーダンス回路の測定では大きな負荷になる可能性があります。
■10:1プローブの入力負荷
10:1パッシブプローブは、1:1プローブより高い入力抵抗と小さい入力容量を持つのが一般的です。
代表的な入力特性は以下の通りです。
・ 入力抵抗:約10MΩ
・ 入力容量:数pFから数十pF
・ 周波数帯域:数十MHzから1GHz程度
入力信号は10分の1に減衰しますが、回路へ与える負荷を抑えやすいため、一般的な電子回路では10:1プローブが広く使用されています。
小振幅信号であっても、測定対象が高速または高インピーダンスの場合は、1:1より10:1プローブの方が正確に測定できることがあります。
■アクティブプローブの入力負荷
アクティブプローブは、プローブ先端付近にFETやバッファアンプを配置することで、入力容量を小さくしています。
代表的な特長は以下の通りです。
・ 入力容量が小さい
・ 高周波で高い入力インピーダンスを維持しやすい
・ 広い周波数帯域を持つ
・ 高速信号への負荷を抑えやすい
・ 直流入力抵抗はパッシブプローブより低い場合がある
アクティブプローブの直流入力抵抗が10:1パッシブプローブより低くても、入力容量が非常に小さいため、高周波ではアクティブプローブの方が測定対象へ与える負荷が小さくなる場合があります。
プローブ負荷を評価する際は、直流入力抵抗だけでなく、入力インピーダンスの周波数特性を確認します。
■高電圧プローブの入力負荷
高電圧プローブは、高い減衰比と入力抵抗によって、高電圧信号をオシロスコープで測定可能なレベルへ低下させます。
入力抵抗が数十MΩから数百MΩと高い製品でも、入力容量によって高周波回路へ負荷を与えます。
高電圧・高速スイッチング回路では、プローブ入力容量によって以下のような影響が発生する可能性があります。
・ スイッチング速度の変化
・ ピーク電圧の変化
・ リンギング周波数の変化
・ スイッチング損失の変化
・ ゲート波形の変化
最大入力電圧だけでなく、入力容量と周波数特性も確認する必要があります。
■差動プローブの入力インピーダンス
差動プローブでは、プラス入力とマイナス入力の間の差動入力インピーダンスと、各入力からGNDまでのコモンモード入力インピーダンスがあります。
仕様書では、以下のような項目が記載される場合があります。
・ 差動入力抵抗
・ 差動入力容量
・ 各入力からGNDまでの抵抗
・ 各入力からGNDまでの容量
プラス側とマイナス側の入力特性が完全に一致していない場合、コモンモード信号の一部が差動信号として表示されます。
高いCMRRを維持するには、プローブ本体だけでなく、両入力の接続長、チップ形状、寄生容量も揃えることが重要です。
■プローブチップとアクセサリの影響
プローブの入力容量は、プローブ本体だけで決まりません。
以下のアクセサリも入力容量や寄生インダクタンスを増加させます。
・ フックチップ
・ グラバクリップ
・ 延長リード
・ 変換アダプタ
・ テストクリップ
・ PCBはんだ付け用リード
・ 長いグランドリード
データシートに記載された入力容量は、指定された標準チップや接続条件での値である場合があります。
アクセサリを変更した場合は、入力容量、帯域幅、立上り時間、CMRRなどが変化する可能性があります。
■グランドリードのインダクタンス
グランドリードには、長さに応じた寄生インダクタンスがあります。
この寄生インダクタンスとプローブの入力容量が共振回路を形成すると、リンギングやオーバーシュートが発生します。
グランドリードが長いほど、以下の影響が大きくなります。
・ 高周波インピーダンスの増加
・ 共振周波数の低下
・ リンギングの増加
・ 外来ノイズの拾い込み
・ 実効帯域幅の低下
高速信号を測定する場合は、グランドスプリング、同軸接続、PCB用はんだ付けチップなどを使用し、信号とグランドの接続を短くします。
■測定ポイントの出力インピーダンス
同じプローブを使用しても、測定対象の出力インピーダンスによってプローブ負荷の影響は異なります。
出力インピーダンスが低い回路では、プローブ負荷による電圧変化は比較的小さくなります。
出力インピーダンスが高い回路では、入力抵抗と入力容量の影響が大きくなります。
特に注意が必要な測定ポイントは以下の通りです。
・ 高抵抗の分圧点
・ 発振回路
・ 水晶振動子
・ 高インピーダンスのアンプ入力
・ センサ出力
・ 電流源回路
・ 高インピーダンスのフィードバックノード
可能であれば、出力インピーダンスの低い測定ポイントを選びます。
■50Ω入力と高インピーダンス入力
オシロスコープには、1MΩ入力と50Ω入力を切り替えられる製品があります。
1MΩ入力は、一般的なパッシブプローブや高インピーダンスプローブに使用します。
50Ω入力は、高周波同軸信号、50Ω伝送線路、特定のアクティブプローブなどに使用します。
50Ω入力へ高電圧信号を直接接続すると、大きな電流が流れ、入力回路を損傷する可能性があります。
また、1MΩ入力を前提とした10:1パッシブプローブを50Ω入力へ接続すると、正しい減衰比と周波数特性を得られません。
プローブが必要とする入力インピーダンスと、オシロスコープの設定を一致させる必要があります。
■プローブ負荷を確認する方法
プローブ負荷の影響を確認する方法には、以下があります。
・ 異なる種類のプローブで測定結果を比較する
・ 入力容量の異なるプローブを比較する
・ プローブを接続する前後で回路動作を確認する
・ 測定ポイントを変更する
・ 回路シミュレーションへプローブの等価回路を追加する
・ プローブの入力インピーダンス曲線を確認する
例えば、パッシブプローブと低容量アクティブプローブで測定した波形が大きく異なる場合、プローブ負荷の影響を受けている可能性があります。
プローブを交換する際は、帯域幅、減衰比、ノイズなどの条件も考慮します。
■プローブ負荷を小さくする方法
プローブ負荷を抑える主な方法は以下の通りです。
・ 入力抵抗の高いプローブを使用する
・ 入力容量の小さいプローブを使用する
・ 1:1ではなく10:1プローブを検討する
・ 広帯域アクティブプローブを使用する
・ 接続リードを短くする
・ 不要なアダプタを使用しない
・ 出力インピーダンスの低い測定ポイントを選ぶ
・ 専用のテストポイントを基板へ設ける
・ 同軸構造の接続を使用する
高速回路では、入力抵抗より入力容量を小さくすることが重要です。
■プローブ選定時の確認項目
プローブの入力特性を確認する際は、以下の項目を確認します。
・ 直流入力抵抗
・ 入力容量
・ 入力インピーダンスの周波数特性
・ 減衰比
・ 周波数帯域
・ 立上り時間
・ 使用するプローブチップ
・ グランド接続方法
・ オシロスコープの入力抵抗と入力容量
・ 測定対象の出力インピーダンス
・ 必要な電圧範囲と感度
「入力抵抗が高い」という仕様だけでプローブを選ばず、実際に測定する周波数における入力インピーダンスを確認することが重要です。
■まとめ
入力抵抗は、主に直流と低周波におけるプローブ負荷を示します。入力容量は高周波におけるプローブ負荷を決める重要な要素です。
周波数が高くなると、入力容量のインピーダンスは低下します。そのため、入力抵抗が10MΩのプローブでも、高周波では数百Ω程度の負荷になる場合があります。
プローブ負荷によって、信号振幅、立上り時間、リンギング、発振周波数などが変化し、回路動作そのものへ影響を与える可能性があります。
正確な測定を行うには、測定対象の出力インピーダンスと信号周波数を確認し、入力抵抗が高く、入力容量が小さいプローブを選定することが重要です。また、プローブチップとグランド接続を短くし、アクセサリによる寄生成分も抑える必要があります。
■T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ
T&Mコーポレーション株式会社では、低入力容量アクティブプローブ、差動プローブ、高電圧差動プローブ、光アイソレーション差動プローブ、パッシブプローブなど、さまざまな入力インピーダンスに対応したプローブを取り扱っております。
測定対象の出力インピーダンス、周波数帯域、立上り時間、電圧範囲、許容できるプローブ負荷、使用するオシロスコープなどに応じて、適切なプローブをご提案いたします。プローブの選定、製品仕様、対応機種、お見積りなどについては、T&Mコーポレーション株式会社までお気軽にお問い合わせください。













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