この記事では、伝導エミッションの測定値をコモンモードとディファレンシャルモードに切り分ける方法について解説します。

 

伝導エミッションのモード

伝導エミッションの限度値は、一線対地間(L-GND 間と N-GND 間)の電圧で規定されています。

この規定の中に、モードという概念が含まれていません。そのため測定値は、コモンモードとディファレンシャルモードが足し合わされた値になります。

限度値にモードの概念がないため、ノイズ対策においてもモード別の視点が見落とされがちです。

周波数と支配的なモード

伝導エミッション試験において、コモンモードとディファレンシャルモードのどちらが支配的かは周波数によって変化する傾向があります。

汎用的な装置では、1MHz 以下ではディファレンシャルモードが支配的になり、それより高い側でコモンモードが支配的になることが多いです。周波数が低い領域でディファレンシャルモードが支配的となる理由は、スイッチング周波数の高調波がそのまま電源ラインへ漏れ出すためです。

ただし、電力容量の大きいパワーエレクトロニクス機器などでは、低い周波数帯でもコモンモードのレベルが高いこともあります。

そこで重要になるのが、モードを切り分けるという考え方です。ノイズレベルの中身がコモンモードなのかディファレンシャルモードなのかがわかれば、それに応じた適切な対策を取ることができます。

 

モードの切り分け方法

伝導エミッション測定でモードを切り分ける手段は、3 通りあります。

  • モード分離治具
  • デルタ型 LISN
  • 電流プローブ

 

表1 3 つの切り分け方法の比較

 

いずれも使用する装置・治具は異なりますが、同じようにモード別のノイズレベルを測定可能にするものです。なおこれらの装置・治具は、モード間の相対値を比較したり、モード別のノイズ対策の効果を判定するために使用します。

モード分離治具

モード分離治具(バラン)は、LISN とスペクトラムアナライザの間に挿入して使用します。

LISN の L と N の 2 つの測定ポートを治具の入力端子に接続し、そこからコモンモード成分とディファレンシャルモード成分に分離して、別々のポートから出力できます。

各ポートをスペクトラムアナライザに接続すれば、モード別のスペクトルを直接測定できます。

デルタ型 LISN

デルタ型 LISN は、L-N 間のディファレンシャルモード電圧と、L と N の中点から GND までのコモンモード電圧を分離して取り出せる LISN です。

先のモード分離治具が LISN に内蔵されたものというイメージです。

ただし製品規格の適合試験で使う LISN とは別物で、原因の切り分けに使う診断用の位置づけになります。

電流プローブ

電流プローブを使ったモード分離は、専用の治具を持っていなくても試すことができます。

コモンモードを検出するときは、2 本のケーブルをまとめて、同じ向きで電流プローブに通します(図1)。こうすることで、2 本を同じ向きに流れる電流だけが足し合わされてコモンモード電流を検出できます。

ディファレンシャルモードを検出するときは、片方のケーブルを折り返して、2 本のケーブルが互いに逆向きに通るようにします。そうすることでもともと逆向きの磁束だったものが互いに足し合わされて、ディファレンシャルモード電流が検出できるようになります。

 

図1 電流プローブによるコモンモードとディファレンシャルモードの検出

 

モード分離治具の原理

ここからはモード分離治具の原理について、少し深掘りします。この治具がモードを分離できるのは、コモンモードとディファレンシャルモードで電流の流れる経路が違うためです。

電流経路とインピーダンス

LISN の 2 つの出力は、それぞれ 50Ω で終端されていて、その一端が GND に接続されています。そしてこの GND は 2 つの出力で共通です。

コモンモード電流は、L 側と N 側を同じ向きに流れていき、GND を介して戻ってきます。このときコモンモードノイズ源から見ると、2 つの 50Ω 終端が並列接続されているため、コモンモードインピーダンスは 50Ω の半分の 25Ω になります。

ZCM=502=25 Ω

一方でディファレンシャルモード電流は、L 側と N 側を逆向きに流れていき、GND を介さずに戻ってきます。このときディファレンシャルモードノイズ源から見ると、2 つの 50Ω 終端が直列接続されているため、ディファレンシャルモードインピーダンスは 50Ω の 2 倍の 100Ω になります(図2)。

ZDM=50+50=100 Ω

 

図2 モード別の電流経路と 25Ω・100Ω

 

モードによる伝わり方の違い

モード分離治具の肝となるのは、センタータップ付きのトランスです。1 つの巻線の両端に、LISN の L 側と N 側の出力をそれぞれ接続します(図3)。

 

図3 モード分離治具の回路

 

ディファレンシャルモードでは、L 側と N 側に逆向きの電圧がかかるので、巻線の端から端へ電流が流れます。この電流により生じた磁束が反対側の巻線へ鎖交し、ディファレンシャルモードとして出力されます。

コモンモードでは、L 側と N 側に同じ電圧がかかります。ここで巻線の両端には電位差が生じないため電流が流れず、磁束も生じません。

そこでコモンモード成分は、巻線の中点から取り出します。この中点をセンタータップと呼びます。センタータップに現れる電圧は、2 つの入力電圧の平均、つまりコモンモード成分です。

このセンタータップは 2 つ目のトランスの一次側に接続されており、この 2 つ目のトランスを介してコモンモードとして出力されます。

インピーダンスの変換

ディファレンシャルモードとコモンモードの 2 つの出力は、どちらも 50Ω 終端の計測器へ接続されます。そのため出力端子に接続する前に、インピーダンス整合する必要があります。

ディファレンシャルモードインピーダンスは 100Ω なので、1 つ目のトランスで 50Ω へ落とします。一方でコモンモードインピーダンスは 25Ω なので、2 つ目のトランスで 50Ω へ上げます。どちらもインピーダンス比は 2 です。

これによって 2 つのモードとも 50Ω 終端に対してインピーダンス整合され、LISN と計測器間の信号の反射を抑制できるようになります。

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