この記事では、信号ライン向けの LC フィルタで設計どおりの減衰特性が得られない原因について解説します。
入出力インピーダンスの影響
設計ツールやカタログに掲載されている減衰特性は、入力側と出力側のインピーダンスが 50Ω であることを前提にしています。
この 50Ω は、高周波回路で信号を反射させないためにデフォルトとなっており、同軸ケーブル・コネクタ・計測器はいずれも 50Ω で統一されています。
一方で、実際の信号ラインの入出力インピーダンスは 50Ω とは限りません。たとえば、ドライバの出力インピーダンスは数Ω程度まで低い場合があり、レシーバの入力インピーダンスは数kΩ以上と高い場合があります。
つまりフィルタ回路の前後の入出力インピーダンスは、高い場合も低い場合もあるということです。
減衰特性の変化例
入出力インピーダンスが 50Ω の前提が崩れると、それに応じてフィルタ回路の減衰特性も変化します(図1)。

図1 入出力インピーダンスのずれによる減衰特性の変化
減衰特性の主な変化点は 2 つです。1 つ目はカットオフ周波数の付近に共振が発生すること、2 つ目は減衰域の減衰量が設計値よりも小さくなることです。
最もわかりやすい例としては、アンテナと受信機の間に挿入するフィルタ回路があります。
アンテナのインピーダンスは周波数によっても変わるため、それに合わせて回路を設計します。ここでアンテナのインピーダンスを把握しないまま 50Ω で設計した回路を挿入しても、期待した減衰特性は得られません。
したがってフィルタ回路は、入出力インピーダンスが高い場合と低い場合のそれぞれに対処して設計する必要があります。
トポロジーの決め方
フィルタ回路の前後の入出力インピーダンスがわかれば、トポロジーはそれをもとに決められます。トポロジーとは、コイルとコンデンサの組み方のことで、π 型・T 型・L 型の 3 つがあります。
型の構成
この 3 つの型は、コイルとコンデンサの配置で区別されます。
- π 型:入力側と出力側にコンデンサを並列に置き、その間にコイルを直列に置く
- T 型:入力側と出力側にコイルを直列に置き、その間にコンデンサを並列に置く
- L 型:コイルとコンデンサを 1 つずつ置く。どちらを入力側にするかで 2 通りある
いずれの型を選ぶべきかは、フィルタ回路の前後の入出力インピーダンスで決まります。
配置の根拠
フィルタ回路の減衰量は、コンデンサとコイルのインピーダンスと、前後の入出力インピーダンスの差で決まります。この差が大きいほど、減衰量は大きくなります。
コンデンサは周波数が高いほどインピーダンスが低くなります。そのため並列に配置すると、高い周波数の成分は後段の回路ではなくコンデンサへ分流し、減衰量が大きくなります。
コイルは周波数が高いほどインピーダンスが高くなります。そのため直列に配置すると、高い周波数の成分は後段の回路へ到達する前にコイルで阻止され、減衰量が大きくなります。
したがって型の選定指標は、入出力インピーダンスが高い側にコンデンサを並列に配置し、低い側にコイルを直列に配置することです。
この指標をもとに、入出力インピーダンスの高低の組み合わせから 3 つの型を選択できます(図2)。
- 両側とも高い:両側にコンデンサを置くため π 型
- 両側とも低い:両側にコイルを置くため T 型
- 片側が高く片側が低い:コンデンサを高い側、コイルを低い側に置く L 型

図2 前後のインピーダンスの高低とトポロジーの対応
ちなみに、入出力インピーダンスが 50Ω の系では、前後が同じ値で整合しているため、π 型と T 型で減衰特性に差が現れず、トポロジーを選ぶ根拠は得られません。
減衰特性に差が生じるのは、あくまでも入出力インピーダンスが 50Ω と異なる信号ラインです。そのため、入出力インピーダンスがわからない場合は、まず実測してインピーダンスを把握してからフィルタ回路の設計に着手します。
応答特性と共振の鋭さ
入出力インピーダンスが 50Ω と異なる信号ラインでは、カットオフ周波数の付近に共振が発生します。この共振の鋭さは、フィルタ回路の応答特性と部品の抵抗成分によって決まります。
応答特性の選び方
応答特性は、減衰傾度と波形のひずみのどちらを優先するかで分かれます(図3)。
- ベッセル特性:減衰傾度が緩やか。波形のひずみが小さい
- バタワース特性:通過域の減衰量が平坦。汎用
- チェビシェフ特性:減衰傾度が急峻。通過域にリップルがあり波形のひずみが大きい
- エリプティック特性:減衰傾度が最も急峻。波形のひずみが大きく、設計が難しい

図3 応答特性 4 種の減衰特性の比較
減衰傾度は急峻なほど良いわけではありません。この理由は、減衰傾度を優先すると、その分だけ通過域のリップルと波形のひずみが大きくなるためです。
そのため特別な要求がなければ、バタワース特性を選択することが一般的です。
共振の鋭さと部品の抵抗成分
共振の鋭さは Q 値で表します。整合が取れた 50Ω の系では、終端抵抗が共振を抑えるため、減衰特性は応答特性で選んだとおりに収まります。
一方で 50Ω 終端の前提が崩れると、この抑えは設計どおりには働かず、共振のピークが現れます。このピークは、時間波形ではリンギング・オーバーシュートとなり、波形のひずみを抑える必要がある用途で問題になります。
このとき共振の鋭さは、回路に残る直列抵抗の合計 で決まり、 が大きいほど Q 値は小さくなります。
この には、コイルの抵抗成分(巻線抵抗とコアの損失)と、コンデンサの等価直列抵抗が合算されます。その中で共振の鋭さを決めるのはコイルの抵抗成分です。
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