この記事では実践的なテスタの選定方法について解説します。
選定の全体フロー
テスタは機種ごとに機能やスペックに大きな違いがあります。
ここではまず形態を決めて、そこから目的→機能→スペックの三段階で機種を絞り込む手順を紹介します。
この手順により、不要な機能や過剰スペックを避けて、用途に合った機種が選べるようになります。
ハンドヘルド型とベンチトップ型の違い
テスタには、ハンドヘルド型とベンチトップ型 DMM の 2 つの形態があります。
ハンドヘルド型は現場へ持ち運んで使うことを前提にした形態で、電池駆動と安全カテゴリの高さが特徴です。
一方でベンチトップ型 DMM は据え置きで使うことを前提にした形態で、確度と分解能を高く、さらに通信インタフェースを介した自動計測にも適しています。
ここでまずテスタの使用場面に合わせて、適切な形態のものを選定します。
選定の三段階
次に、目的→機能→スペックの三段階で機種を絞り込みます(図1)。

図1 テスタ選定の全体フロー
一段階目では測定の目的を明確化します。
これは例えば、配電盤の交流電圧を測定する、基板上の電子回路で直流電圧を測定する、といった粒度で問題ありません。この測定対象が定まることで、必要な機能・スペックが明確になります。
二段階目は機能の選別です。ここでは目的から必要な機能を導きます。
例えば、正弦波以外の波形を測定する場合は True RMS とローパスフィルタの機能を搭載したもの、配電盤の高電圧を測定する場合は安全カテゴリに準拠したものを選ぶといった具合です。
そして三段階目でようやくスペックを検討します。ここでは必要機能に直結するスペックに対して、しきい値と誤差幅の余裕から必要な性能を見積もります。
例えば 200V の交流電圧を測定するときに、200V と 201V の 1V の差を見分けたいとします。ここで 6000 カウント・確度 ±0.3% のテスタでは、200V での誤差幅は約 ±0.6V となり、1V の差に対して余裕がありません。
そこで見分けたい 1V に対して 3 倍程度の余裕をとると、誤差幅は約 ±0.3V が目安になります。これを 200V で満たすには、20000 カウント・確度 ±0.1%+5 dgt 以上のスペックが必要になります。
目的別の必要機能
ここからは測定対象を軸にして、必要な機能と不要な機能の考え方を紹介します。
交流波形の考え方
交流電圧測定では、測定対象が正弦波かそれ以外の波形かによって True RMS 機能の必要性に違いが生じます。
True RMS は、波形から実効値を直接計算して表示するための機能です。True RMS に対応しないテスタでは、正弦波を前提とした固定係数をもとに実効値換算するため、歪んだ波形の実効値は原理的に測定できません。
またインバータやモータドライブの出力波形を測定対象とする場合は、ローパスフィルタも必要になります。ローパスフィルタなしの場合、PWM のスイッチングノイズが実効値に加算され、モータ印加電圧の基本波成分より高い値が表示されるためです。
一方で電源ラインの正弦波交流や直流電圧を測定するだけであれば、この 2 つの機能は不要と判断できます。
入力インピーダンスの考え方
配電盤や建物配線の点検用途では、並走するケーブルからの誘導によって、活線でない配線にも電圧が観測されることがあります。この見かけの電圧を幽霊電圧と呼びます。
標準の高入力インピーダンス(約 10 MΩ)のテスタでは、この幽霊電圧と実電圧を区別することが困難です。
そのため入力インピーダンスを数百 Ω 以下に切り替えられる低入力インピーダンスモード(LoZ)の機能を使い、誘導電圧を短絡して実電圧だけを読み取る必要があります。
一方で電子回路の直流電圧を測定する場面では、出力インピーダンスの高い回路が測定対象になることもあります。
こうした高抵抗回路を 10 MΩ 入力のテスタで測定すると、テスタ側へ電流が流れ込んで回路の電圧そのものが低下し、表示値が実際の電圧よりも低く表示されます。
具体的には 1:1 分圧回路の分圧抵抗を 10 kΩ 級から 10 MΩ 級に変更すると、表示値は 4.988 V から 2.388 V まで低下します。
そのため回路の出力インピーダンスが数百 kΩ を超えるような場面では、ハンドヘルド型では対応が難しく、ベンチトップ型 DMM が必要になります。
例えば SIGLENT の SDM シリーズでは、DCV 測定の入力インピーダンスとして 10 MΩ と 10 GΩ の切替に対応しています。
ただし切替に対応するレンジは機種によって異なるため、選定にあたっては測定電圧に対応したレンジで切り替え可能かを確認しておくべきです。
スペックの決め方
スペックの選定では、必要な機能に直結する項目に絞って、しきい値と誤差幅の余裕から必要な値を見積もります。
ここではカウント数・確度・AC 帯域を取り上げ、最後にベンチトップ型 DMM の代表機種で相場感を示します。
カウント数と確度の対応
カウント数は表示値の最小ステップ、確度は表示値と真の値のずれを表すスペックです。
カウント数が大きくなればより小さい桁まで表示できますが、確度が十分でなければその差は誤差幅に埋もれてしまいます。そのためこの 2 つのスペックは一方だけで選ぶことはできず、2 つを組み合わせて評価します。
カウント数については、エントリークラスのハンドヘルド型では 6000 カウントが一般的で、ハイエンドクラスになると 10000〜50000 カウントあたりから選択できます。
またベンチトップ型 DMM では、分解能をカウント数ではなく桁数で表すのが一般的です。桁数はフルスケールで表示できる 9 の並びの個数に対応し、たとえば 4½ 桁は約 20000 カウント、6½ 桁は約 2000000 カウントの分解能に相当します。
ただし実際の機種では表示範囲を広げたものが多く、同じ桁数でもカウント数は大きくなります。
AC 帯域
AC 帯域は、規定の確度で交流電圧を測定可能な周波数範囲を示すスペックです。
エントリークラスのハンドヘルド型は上限周波数が 3 kHz 程度、ハイエンドクラスでは最大約 100 kHz まで対応しているものもあります。
インバータやスイッチング電源の出力を測定対象とする場合、信号に含まれる高調波成分まで加味して AC 帯域を選択することで、表示値と実際の実効値の乖離を低減できます。
ベンチトップ型 DMM の比較例
ベンチトップ型 DMM の代表として、SIGLENT の SDM3045X/SDM3055/SDM3065X の 3 機種を比較します(表1)。
表1 SDM3045X/SDM3055/SDM3065X のスペック比較

桁数が上がるとカウント数と DCV 確度が段階的に向上します。通信インタフェースは 3 機種とも USB と LAN を備え、リモート制御による自動計測に対応しています。
このようにベンチトップ型 DMM では、必要なスペック(分解能・確度)から機種を絞り込むことができます。
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