この記事では、ノイズフィルタの減衰量がデータシートどおりにならない原理について解説します。

 

減衰量の規定方法

ノイズフィルタの減衰量は、フィルタ単体の性能では決まりません。その理由は、フィルタの前後にある入力インピーダンスと出力インピーダンスの影響を受けるためです。

入出力インピーダンスとは

どのような回路でも、入力端子と出力端子には固有のインピーダンスが存在します。

これをノイズ対策の観点に置き換えると、信号源に相当するノイズ源には出力インピーダンス、負荷となる電源網やLISN(擬似電源回路網)には入力インピーダンスが存在すると見立てられます(図1)。

 

図1 ノイズ源と入出力インピーダンス

 

そしてノイズ源の電圧VS は、出力インピーダンスZSと入力インピーダンスZLの 2 つで分圧され、その電圧が受信電圧VL、すなわち伝導エミッション試験のノイズレベルとなります。

VL=VSZLZS+ZL

この式で重要なポイントは、受信電圧が入出力インピーダンスの比で決まるということです。

ノイズフィルタの作用

ここへノイズ対策としてノイズフィルタを挿入すると、直列接続されたインダクタは出力インピーダンスを加算するように働き、並列接続されたコンデンサは負荷全体の入力インピーダンスを低下させるよう作用します(図2)。

 

図2 フィルタを挿入した分圧回路の等価回路

 

これによって受信電圧がどれくらい変わったかを表すのが、データシートに掲載された減衰特性です。この減衰量は、インダクタのインピーダンスが高く、コンデンサのインピーダンスが低いときほど大きくなります。

測定条件の影響

ここで重要なポイントは、同じノイズフィルタでも入出力インピーダンスの組み合わせによって減衰量が変化するということです。

データシートの減衰特性は、ネットワークアナライザ(VNA)で測定するため入出力インピーダンスが 50Ω となっていることが一般的です。一方で実機では、ノイズ源の出力インピーダンスは規定されておらず、またLISNの入力インピーダンスも周波数によって変化します。

そのため実際のノイズ対策の現場において、ノイズフィルタの減衰量がデータシートよりも大きくなったり、小さくなったりということが起こります。さらに言えば、EUTによってもノイズ源の出力インピーダンスが異なるため、ある装置では有効だったノイズフィルタが、別の装置では思ったようなノイズ抑制効果が得られなかったということにもつながります。

 

入出力インピーダンスの影響

実機では入出力インピーダンスにも周波数特性があるため、1 つの組み合わせの減衰特性をそのまま当てはめるべきではありません。

組み合わせ別の変化

ノイズフィルタを含めたノイズ対策部品の測定方法を規定する CISPR 17 では、入出力インピーダンスに 0.1Ω と 100Ω のパターンを設けた測定条件が紹介されています。

ここでノイズフィルタの回路構成によって、この入出力インピーダンスの組み合わせの影響が顕著に出ます。

具体的には、入力インピーダンスが低くて出力インピーダンスが高い組み合わせでは、直列接続されたインダクタの減衰量が低下し、並列接続されたコンデンサの減衰量も低下します。

反対に入力インピーダンスが高くて出力インピーダンスが低い組み合わせでは、インダクタによる減衰量が増加し、コンデンサによる減衰量も増加します。

そのため、同じノイズフィルタであっても入出力インピーダンスの組み合わせ次第で減衰特性は変化します(図3)。

 

図3 入出力インピーダンスによる減衰特性の違い

 

ここで示したのは 1 段の LC で構成したノイズフィルタの減衰特性の計算例ですが、実際のノイズ対策ではデータシートの減衰量よりも低下することがほとんどで、これは入出力インピーダンスの影響そのものといえます。

CISPR 17 の条件

ちなみに CISPR 17 で規定されている 0.1Ω と 100Ω の組み合わせは、装置内の減衰特性を予測できないという前提に立って規定されています。

これらのインピーダンスの組み合わせは、近似ワーストケース法として規定されたもので、この組み合わせ検証だけで十分というわけではありません。一方で 50Ω/50Ω で測った減衰特性は、実機で得られる減衰量よりも一貫して高くなり、低い周波数ではその差が最大 20dB に達した例もあります。

そして実際はノイズフィルタの前後に接続されるインピーダンスは未知であり、また周波数によっても値が変化します。つまり、2 条件が示すのは、減衰量の増加と低下の概念的な傾向であり、これをもとに実機での減衰量を予想できるというわけではありません。

 

フィルタタイプの選び方

ノイズフィルタは、製品を特徴で分類していることが一般的です。使用しているノイズフィルタの減衰量が不十分な場合は、この分類をもとにして種類を検討します。

共通の分類

分類の名称はメーカーごとに異なりますが、ここでは一般化して汎用・高減衰・低漏洩電流・パルス・サージ対応の 4 つに整理して説明します(表1)。

 

表1 特徴分類と用途の対応

 

選定手順

ノイズフィルタの選定の基準になるのは汎用タイプです。この汎用タイプで仕様を満足しなかった場合に、別の特徴の製品への切り替えを検討します。

ただし種類を替える前に試せる手立てが 1 つあります。それはノイズフィルタの向きです。

汎用のノイズフィルタはコモンモードチョークコイルと X コンデンサ・Y コンデンサによる 1 段構成ですが、入出力を逆向きにすることでノイズ源から見た回路構成が変化し、減衰効果に差が出る場合があります。この理由は、入出力インピーダンスの影響が素子によって異なるためです。

それでも減衰量が不足する場合は、高減衰タイプに切り替えます。高減衰タイプではチョークコイルを 2 段に配置して減衰量を高めているものや、チョークコイルのコア材に高透磁率のナノクリスタルなどを使用して、低周波での減衰量を高めているものもあります。

これら 2 つは限度値を超えている周波数で使い分けます。低い周波数で超えている場合は高透磁率タイプ、広い周波数範囲で超えている場合は 2 段タイプが候補になります。

その他のタイプは伝導エミッション試験以外の要求事項がある場合に、選択候補となります。

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