この記事では、信号ライン向けのフィルタ回路の各種特性の意味や選び方について解説します。

 

減衰特性の読み方

フィルタ回路の減衰特性は、横軸が周波数、縦軸が減衰量のグラフで表されます。

このグラフは 3 つの領域に分かれており、それぞれの境界と傾きを決めることがフィルタ回路の設計では重要になります(図1)。

  • 通過域:信号が通過する周波数帯
  • 遷移域:周波数の変化に応じて減衰量が増加する周波数帯
  • 減衰域:高い減衰量を持つ周波数帯

これらに加えて、領域の境界と形を表す 3 つの特性があります。

  • カットオフ周波数(fc):減衰量が -3dB になる周波数。通過域と遷移域の境界
  • リップル:通過域における減衰量の変動の大きさ
  • 減衰傾度:遷移域における減衰量の傾きの大きさ

 

図1 減衰特性の 3 領域

 

領域の考え方

フィルタ回路の特性には必ずカットオフ周波数が出てきますが、カットオフ周波数を境にノイズが急激に減衰するわけではありません。

この理由は、カットオフ周波数を超えたとしても遷移域に過ぎないからです。

遷移域の傾きは有限であり、カットオフ周波数の付近では減衰量がまだ小さいままです。そのため、この遷移域にノイズが存在する場合、フィルタ回路を挿入してもノイズレベルが大きく低減するわけではありません。

つまり、フィルタ回路の設計では対象となるノイズの周波数が減衰域に入るように、カットオフ周波数と減衰傾度を決める必要があるということです。

 

次数と減衰傾度

フィルタ回路の設計では、ノイズが減衰域に入るようにカットオフ周波数と減衰傾度を決めます。

ここでカットオフ周波数については信号とノイズの間に設定しますが、減衰傾度は信号とノイズの周波数の差によって調整する必要があります。

両者の差が大きい場合には、減衰傾度が緩やかでも問題になりません。一方で両者の差が小さい場合は、減衰傾度の大きいフィルタ回路が必要になります。

この減衰傾度は、フィルタ回路の次数によって決まります。次数とは、フィルタ回路に含まれるコイルとコンデンサの数です。この数が大きいほど減衰傾度が大きくなり、急峻なフィルタになります。

次数が 1 段高くなると、減衰傾度は 20dB/decade 大きくなります(図2)。

 

図2 次数による減衰傾度の違い

 

また次数が高いほど、減衰域の減衰量も大きくなる傾向があります。そのためノイズレベルが高い場合にも、高次のフィルタ回路が有効です。

ただし次数を上げると、その分だけコイルとコンデンサの数が増えます。それによって部品点数・実装面積・コストがいずれも増えるため、必要な減衰量が得られる範囲で、次数は低く抑えるべきです。

 

フィルタの分類と選び方

フィルタの種類は 4 つの軸で分類できます。この 4 つは、実際にフィルタを選んでいく手順としても成立します(表1)。

 

表1 4 つの分類軸と選択肢

 

周波数特性による分類

周波数特性で分類すると、フィルタは 4 つに分かれます。

  • ローパスフィルタ(LPF):カットオフ周波数以下の信号を通す。用途はノイズフィルタ
  • ハイパスフィルタ(HPF):カットオフ周波数以上の信号を通す。用途は AC 結合・DC カット
  • バンドパスフィルタ(BPF):特定の周波数帯の信号のみを通す。用途は受信機の IF フィルタ
  • バンドエリミネーションフィルタ(BEF):特定の周波数帯の信号のみを遮断する。ノッチフィルタとも呼ばれる。用途はハムノイズ除去

ノイズ対策で使うのは、ほとんどが LPF です。この理由は信号が低周波数側、ノイズが高周波数側に存在することが多いためです。

回路方式による分類

回路方式は 3 つに分かれ、対象とする周波数帯で判断します。

  • アクティブフィルタ:主に 100kHz 以下の信号ラインに使う
  • パッシブフィルタ:代表は LC フィルタで、主に 1kHz〜1GHz あたりで使う
  • 伝送線路フィルタ:主に GHz 以上の RF 信号ラインに使う

アクティブフィルタは、OPアンプ(能動素子)と抵抗・コンデンサ(受動素子)を組み合わせた回路構成です。OPアンプによって入出力に接続された回路の影響を受けなくなるため、設計の自由度が高く、小型・高減衰なフィルタを実現しやすいことが特徴です。短所は OPアンプのゲイン帯域幅の制限によって高周波回路で使用できないことです。そのため、用途は比較的周波数が低いセンシング回路・電源回路・オーディオ回路になります。

パッシブフィルタは、抵抗、コンデンサ、コイルといった受動素子を組み合わせた回路構成で、RC フィルタと LC フィルタが一般的です。LC フィルタは対応可能な周波数範囲が広い一方、1kHz 以下ではコイルのサイズが大きくなるため、RC フィルタが使用されることが多くなります。また 1GHz 以上は伝送線路を含めて分布定数回路として設計する必要があるため、使用頻度は低下します。

伝送線路フィルタは、特性インピーダンスが異なる伝送線路を直並列に組み合わせた回路構成です。信号の位相変化を利用するため、波長が長くなる低周波での使用は現実的ではありません。部品が不要な一方で、設計の難易度は高いです。

伝導モードによる分類

伝導ノイズには、線間のディファレンシャルモードと対地間のコモンモードの 2 種類があります。

この 2 つは電流の流れる経路が異なるため、それぞれに別のフィルタ回路が必要になります。

モードによって回路構成が異なり、得られる減衰量にも差があります。そのため対象となるノイズがどちらのモードなのかを先に確認してから、フィルタ回路を選択します。

応答特性による分類

応答特性は、フィルタ回路の減衰量と波形のひずみに影響を与えます。代表的な応答特性としては以下の 4 つがあります(図3)。

  • ベッセル特性:減衰傾度が緩やか、波形のひずみが小さい
  • バタワース特性:汎用。通過域のリップルが平坦
  • チェビシェフ特性:減衰傾度が急峻、波形のひずみが大きい
  • エリプティック特性:減衰傾度が急峻、波形のひずみが大きい、設計が難しい

すべての場面で万能な応答特性は存在しません。そのため特別な要求が無ければ、バタワース特性を選んでおくのが無難です。

 

図3 応答特性 4 種による減衰特性の違い

 

なお 4 つの軸は、完全に独立しているわけではありません。同じカットオフ周波数でも、応答特性が変わればコイルやコンデンサの配置が変わり、それに付随して減衰特性も変化します。

このためフィルタ回路は、軸ごとに独立して決めるのではなく、対象となるノイズが減衰域に入るように、どの周波数とモードをどの特性で減衰させるかを全体で確認しながら選定します。

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