この記事では、設計ツール Filter synthesis を利用した実践的な LC フィルタの設計方法について解説します。

 

設計ツールの使い方

LC フィルタの設計は、正規化表や計算式を自分で扱わなくても始められます。そのための道具が、回路シミュレータ uSimmics のフィルタ回路の自動生成機能 Filter synthesis です。このツールでは、5 つのパラメータを設定するだけで所望のフィルタ回路を生成できます。

Filter synthesis はメニューバーの Tools の中にあり、ショートカットキーの Ctrl+2 からでも起動できます。起動すると専用のウィンドウが立ち上がり、画面左側の Filter の中に各種パラメータを設定していきます(図1)。

 

図1 Filter synthesisのウィンドウ

 

パラメータの設定

Realization のプルダウンメニューでは回路方式を選択します。LC フィルタはパッシブフィルタなので、LC ladder を選択します。

Filter type では応答特性を選択します。ここには、バタワース特性・ベッセル特性・チェビシェフ特性・エリプティック特性(Cauer)のほかに、逆チェビシェフ特性とルジャンドル特性があります。特別な要求がなければ、バタワース特性を選択しておけば問題ありません。

Filter class では周波数特性を選択します。ローパスフィルタ(LPF)・ハイパスフィルタ(HPF)・バンドパスフィルタ(BPF)・バンドエリミネーションフィルタ(BEF)のほかに、分波器(ダイプレクサ・トリプレクサ)も選択できます。

Order にはフィルタ回路の次数を入力します。Corner frequency はカットオフ周波数のことで、LPF や HPF を設計する場合に入力します。BPF や BEF を設計する場合は、減衰量が -3dB となる周波数を Start frequency と Stop frequency に入力します。

この 5 つが、フィルタの減衰特性を決める主なパラメータです。これに加えてパッシブフィルタでは、回路の基準インピーダンスを設定する必要があります。高周波回路の場合は 50ohms と入力しておけば問題ありません。

画面右側のトポロジーも、入出力インピーダンスに応じて選択します。ただし入出力インピーダンスが 50Ω の場合は、π 型と T 型のどちらを選択しても減衰特性に差は生じません。

回路の生成

5 つのパラメータを設定し、Calculate and put into Clipboard をクリックします。問題がなければ Successful と表示され、生成された回路をエディタ上に貼り付けられます。図2 は、π 型・バタワース特性・3 次 LPF(カットオフ周波数 100MHz・入出力インピーダンス 50Ω)を生成した例です。

 

図2 生成された π 型・バタワース特性・3 次 LPF

 

生成された回路を S パラメータ解析でシミュレーションすると、設計どおりの減衰特性が得られていることを確認できます。ただし、生成された部品の定数は中途半端な値になります。

 

E系列への置き換え

部品定数が中途半端な値のままでは、実際の電子部品を手配できません。抵抗やコンデンサは、E 系列に基づいて製造されているため、フィルタ回路もそれに合わせて定数を変更する必要があります。

E 系列とは部品の定数の標準数列のことで、たとえば E12 系列では 1 桁の範囲が 12 段階に刻まれています。そのため定数は E 系列から選択します。一方でコイルは、E 系列と無関係にインダクタンスが設定されていることも多いため、近い定数のものを探します。

部品の入手性

LC フィルタの難しさの 1 つは、この定数の選択肢の少なさです。抵抗は E48 系列や E96 系列の定数も標準品として提供されていますが、コイルやコンデンサはそこまで細かな定数が提供されていません。

そのため精度の高い LC フィルタを製作する場合は、カスタム品のコイルを使用しなければなりません。ただしカスタム品は納期が長く、高価なことがほとんどなので、性能・入手性・コストのバランスを考える必要があります。

3 次 BPF での置き換え例

ここからは π 型・バタワース特性・3 次 BPF を例にして、定数を E12 系列へ置き換えます。

  • 中心周波数:100MHz
  • 通過帯域幅:60MHz
  • 入出力インピーダンス:50Ω

BPF の回路素子は、コンデンサを LC 並列回路、コイルを LC 直列回路に置き換えた構成になるため、3 次 BPF は合計 6 つの回路素子で構成されます(図3)。

 

図3 E12 系列の定数で設計した π 型・バタワース特性・3 次 BPF

 

この回路でシミュレーションすると、低周波側と高周波側でカットオフ周波数が 1〜2MHz 程度ずれていますが、概ね設計どおりの減衰特性が得られていることが確認できます(図4)。

 

図4 E12 系列へ置き換えた 3 次 BPF の減衰特性

 

モンテカルロシミュレーションによる検証

E 系列以外にも、実際の電子部品には許容差という制限があります。

コンデンサやコイルは、定数の選択肢が少ないことに加えて、許容差も大きい傾向にあります。そこでモンテカルロシミュレーションを通じて、許容差がカットオフ周波数に与える影響を確認します。

部品ごとの許容差

コイルのインダクタンスは、巻数と磁性体の透磁率によって決まります。

このうち透磁率はばらつきが大きく、許容差は ±20% のものが一般的です。一方で磁性体を使用しない空芯コイルは、巻線だけでインダクタンスを調整できるため、許容差が比較的小さくなります。

ここでは磁性コイルの許容差を ±20%、空芯コイルの許容差を ±2% と設定しています。

コンデンサも種類によって、静電容量の許容差に違いがあります。積層セラミックコンデンサ(MLCC)の場合、誘電体の材質が Class I と Class II に分かれています。

Class I は誘電率が低いため静電容量は小さくなりますが、許容差が小さく、温度特性にも優れます。一方で Class II は誘電率が非常に高いため大容量のコンデンサを実現できますが、許容差は大きくなります。ここでは Class I の許容差を ±1%、Class II の許容差を ±20% とします。

ばらつきの比較

コンデンサとコイルの許容差の組み合わせは 4 パターンです(表1)。モンテカルロシミュレーションでは、tol 関数で部品の定数と許容差を指定し、100 回の繰り返し計算で減衰特性のばらつきを確認します。

 

表1 コンデンサとコイルの許容差の組み合わせ

 

図5 は No.1(コンデンサ ±1%×空芯コイル ±2%)、図6 は No.2(コンデンサ ±1%×磁性コイル ±20%)のシミュレーション結果です。

 

図5 No.1(コンデンサ ±1%×空芯コイル ±2%)の減衰特性のばらつき

 

図6 No.2(コンデンサ ±1%×磁性コイル ±20%)の減衰特性のばらつき

 

両者を比較すると、いずれかの部品の許容差が大きいと、減衰特性のばらつきが急激に大きくなることがわかります。コンデンサ側の許容差が大きい No.3 も同様(図7)で、どちらの許容差も大きい No.4 では、ばらつきはさらに大きくなります(図8)。

 

図7 No.3(コンデンサ ±20%×空芯コイル ±2%)の減衰特性のばらつき

 

図8 No.4(コンデンサ ±20%×磁性コイル ±20%)の減衰特性のばらつき

 

このように許容差が大きい部品を使用すると、設計どおりの減衰特性が得られないことがあるため、高い精度が必要なフィルタ回路では許容差の小さい部品を選定する必要があります。

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