この記事では、プローブの入力容量が立上り時間を変化させる仕組みと判定方法について解説します。

 

入力容量の影響

観測波形が測定対象の波形と一致しているかどうかは、観測波形を見ただけでは判断できません。その理由は、オシロスコープに接続したプローブの入力容量の影響を受けるためです。

入力容量は、プローブの先端から見た容量成分のことで、測定対象の回路の測定点に並列に接続されます。

この入力容量は、回路の出力インピーダンスと組み合わさって充電回路を構成し、その時定数によってオシロスコープの観測波形の立上りを鈍らせます(図1)。

 

図1 入力容量と出力インピーダンスが構成する等価回路

 

この充電回路は一次のローパスフィルタで、カットオフ周波数より高い成分を減衰させます。

カットオフ周波数は充電回路の時定数から算出でき、減衰した高周波数成分は時間領域においては立上りの鈍りとして観測されます。

時定数とカットオフ周波数

ここでは SIGLENT 製 PB470 をもとに、減衰比 1x(入力容量は 85 pF)で出力インピーダンス 50 Ω の信号源に接続する条件で時定数とカットオフ周波数を算出します。

時定数は、入力容量が出力インピーダンスを通して充電される時間の目安を表し、約 4.25 ns となります。

τ=R×C=50  Ω×85  pF=4.25  ns

カットオフ周波数は、充電回路の時定数から算出され、約 37 MHz となります。

fc=12πRC=12π×4.25  ns≒37  MHz

そして立上り時間は、振幅の 10 % から 90 % までの時間として定義され、一次のローパスフィルタではこの区間の充電に時定数の 2.2 倍を要するため 9.4 ns となります。

tr=2.2×τ=2.2×4.25  ns≒9.4  ns

この 9.4 ns は、入力容量と出力インピーダンスだけで決まる立上り時間であり、測定対象の波形がこれより速く立ち上がったとしても、観測波形はこの立上り時間が下限となります。

減衰比による入力容量の違い

入力容量は、プローブの減衰比によって変わります。減衰比 10x のときの入力容量は 14 pF です。

同じ出力インピーダンス 50 Ω の条件で比較すると、時定数は 0.7 ns、立上り時間は約 1.5 ns となります。

10x で入力容量が小さくなるのは、先端の直列抵抗に並列な補償容量が、オシロスコープ側の容量と直列に合成されるためです。

つまり、入力容量が小さいほど時定数は小さくなり、観測波形の鈍りも小さくなるということです。したがって減衰比の切り替えは、この充電回路が持つ立上り時間を変える操作とも言えます。

 

出力インピーダンスと減衰比の影響

ここでは、出力インピーダンスが時定数にどのように作用するのかを測定で確かめます。合わせて、減衰比による入力容量の差が立上り時間の差として現れるかどうかも確認します。

測定条件と結果

信号源には SIGLENT SDG2042X を使用し、方形波 100 kHz・振幅 ±3.3 V・オフセット 0 V を、負荷設定 高インピーダンス(Load 設定 HiZ)で出力します。

オシロスコープは SIGLENT SDS804X HD を使用し、DC 入力・入力抵抗 1 MΩ の設定で付属のプローブを接続します。

出力インピーダンスについては、信号源の 50 Ω を基準とし、これに直列でリード付き抵抗 100 Ω と 1 kΩ を追加した 3 条件とし、それぞれで減衰比を 1x と 10x で切り替えます(図2)。

 

図2 出力インピーダンス 50 Ω における 1x と 10x の観測波形

 

ここでは同じ方形波を測っているにもかかわらず、1x の観測波形は 10x より立上りが緩やかになっていることがわかります。測定結果を表1 にまとめます。

 

表1 出力インピーダンスと減衰比による立上り時間の違い

 

出力インピーダンスの影響

まず減衰比 10x(入力容量 14 pF)の 3 条件で比較してみると、立上り時間は 6.98 ns/8.21 ns/37.85 ns と出力インピーダンスが高いほど長くなっています。

この立上り時間の増加は、時定数が出力インピーダンスに比例するためです。最も出力インピーダンスが高い条件で計算値と実測値を対比すると、計算値 32 ns に対して、実測値は 37.85 ns で、その差は 2 割以内とおおよそ近い値になっています。

tr=2.2×R×C=2.2×1.05  kΩ×14  pF≒32  ns

このように入力容量による立上り時間が信号源自身の立上り時間より十分に長い条件であれば、観測波形の立上り時間は入力容量と出力インピーダンスの積から算出できます。

これに対して 50 Ω × 10x では、計算値 約 1.5 ns に対して実測値は 6.98 ns です。この条件では、観測波形の立上り時間は信号源・プローブ・オシロスコープの立上り時間で決まり、入力容量の寄与は小さくなっています。

減衰比の影響

次に減衰比 1x(入力容量は 85 pF)の 3 条件で比較します。こちらの立上り時間は 46.90 ns/69.14 ns/266.21 ns であり、同じ出力インピーダンスの 10x に対していずれも長くなっています。

また 50 Ω × 1x の計算値 9.4 ns に対して、実測値は 46.90 ns と大きく乖離しています。この理由は、プローブの周波数帯域による制限を受けるためです。

今回のプローブの周波数帯域は、1x が DC〜6 MHz、10x が DC〜70 MHz です。周波数帯域が狭いほど立上り時間は長くなるため、1x では入力容量よりもプローブの周波数帯域が立上り時間の支配要因となります。

つまり減衰比 1x と 10x の差は、プローブの入力容量ではなく周波数帯域によって生じているということです。これは見落としがちな観点ですが、実務的には重要なポイントです。

 

観測波形の判定手順

測定可能な立上り時間は、使用しているオシロスコープとプローブの組み合わせで決まります。今回の例では、その値が減衰比 10x・出力インピーダンス 50 Ω の 6.98 ns です。

観測波形の立上り時間は、測定対象の波形の立上り時間と測定系の立上り時間の二乗和の平方根になります。

tobs=tsig2+tsys2

ここで tobs は観測波形、tsig は測定対象の波形、tsys は測定系の立上り時間です。

この式に測定系の値として 6.98 ns を代入すると、今回の測定系でどこまで速い信号を測定できるかを算出できます。

測定誤差の算出

例として、測定系の立上り時間に対して 5 倍の 35 ns の信号を測定対象としたときには、観測波形の立上り時間は 35.7 ns となり、誤差は約 2 % にとどまります。

一方で測定対象の信号の立上り時間が 10 ns の場合、観測波形の立上り時間が 12.2 ns となり、誤差は約 22 % まで増加します。

つまりこの測定系で立上り時間を評価できるのは約 35 ns より遅い信号で、それより速い信号は誤差が急に増加するということです。

自分の測定系で判定するときは、減衰比 10x で測定した観測波形の立上り時間を測定系の立上り時間とみなし、同じ式に代入します。

測定系の要求仕様の算出

同じ式から、測定対象の信号に対して必要な測定系の性能も算出できます。

立上り時間 10 ns の信号を誤差 2 % 程度で測定するには、測定系の立上り時間が 2 ns 以下、1 ns の信号を測定する場合には、0.2 ns 以下の性能が必要になります。

なお測定対象の回路の出力インピーダンスが低い場合、入力容量による制限は受けにくくなります。

例えば出力インピーダンスが 10 Ω とすると、減衰比 10x の入力容量 14 pF との時定数が 0.14 ns、立上り時間は約 0.3 ns となります。これは基準の 6.98 ns に対して無視できる大きさです。

そのため測定系の要求仕様については、回路の出力インピーダンスとセットで考える必要があります。

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