この記事では、ノイズフィルタの内部回路の読み解き方と選定手順について解説します。
内部回路と構成部品
ノイズフィルタをただ単に使用しただけでは、伝導エミッション試験で限度値に収まらないことがあります。
このとき次に選ぶノイズフィルタを、メーカーの用途表記だけで決めることは適切ではありません。その理由は、内部の部品とその定数が製品ごとに異なるためです。
ノイズフィルタの選定において、判断の材料になるのはデータシートの内部回路図です。ノイズフィルタの内部回路は、主に 3 つの要素で構成されています(図1)。
- コモンモードチョークコイル(CMC)
- X コンデンサ
- Y コンデンサ

図1 ノイズフィルタの内部回路
この 3 つの要素はすべてのノイズフィルタに共通しています。一方で、製品ごとに違うのは各部品の定数と、CMC の個数を示す段数です。
CMC
CMC は、コモンモード電流に対して高いインピーダンスを持ちます。一方でディファレンシャルモードに対しては、互いの磁束が打ち消し合うためほとんど何も作用しません。
ノイズフィルタに使用される CMC のインダクタンス値は、汎用品でおおむね 0.1mH から 10mH の範囲にあります。このインダクタンス値が大きいほど、コモンモードノイズに対するインピーダンスは高くなる、つまりノイズ抑制効果が高くなります。
また CMC の個数によって製品シリーズが分かれており、1 個を 1 段構成、2 個を直列に配置したものを 2 段構成と呼びます。
X コンデンサと Y コンデンサ
X コンデンサは、ライブ線とニュートラル線間に接続します。2 本のラインを逆向きに流れるディファレンシャルモードノイズに対して、ライン間のバイパス経路を提供します。静電容量は 0.01μF から 2.2μF 程度のものが一般的です。
また X コンデンサと並列に、ブリーダ抵抗と呼ばれる放電抵抗があります。この抵抗は電源を切った後に X コンデンサへ残る電荷を放電させるためのもので、ノイズの減衰そのものには関与しません。
Y コンデンサは、ライン-GND 間に接続します。2 本のラインを同じ向きに流れるコモンモード電流に対して、GND へのバイパス経路を提供し、CMC と組み合わせることで広い周波数範囲でコモンモードノイズを減衰させます。静電容量は 1000pF から 4700pF あたりが多く、漏れ電流による制限があるため 4700pF が実質的な上限となっています。
モード別等価回路
ノイズフィルタの回路はコモンモードとディファレンシャルモードの 2 つの等価回路に分解すると、どの部品がどちらのモードに作用するかを理解できます。
コモンモード
コモンモードの等価回路は、直列に接続された CMC のインダクタンスと、GND に接続された Y コンデンサによって LC フィルタが構成されます(図2)。

図2 コモンモード等価回路
この LC フィルタの減衰量は、理想的な素子であれば周波数が高くなるほど大きくなります。これは CMC のインピーダンスが周波数に比例して大きくなり、Y コンデンサのインピーダンスが周波数に反比例して小さくなるためです。
ただし実際の CMC と Y コンデンサには、それぞれ寄生成分があります。この寄生成分により、CMC のインピーダンスは 1MHz を超えたあたりから低下し、減衰量もここから低下します。また 10MHz 程度からは、Y コンデンサの寄生インダクタンスの影響で減衰量がさらに低下します。
1MHz 以下の減衰量は主に CMC のインダクタンスによって決まります。CMC のコア材としてはマンガン系フェライトが一般的ですが、より高いインダクタンスを得るために他の材質のコア材が使用されているものもあります。
Y コンデンサの静電容量も大きいほど低周波での減衰量が大きくなりますが、この定数には上限があります。その理由は、静電容量を大きくするほど、GND へ流れる漏れ電流が増加するためです。
漏れ電流は電気用品安全法の技術基準で上限が定められており、一項基準で 1mA 以下、二項基準で 0.5mA 以下となっています。この上限によって Y コンデンサの静電容量は 4700pF が実用的な上限となります。
ディファレンシャルモード
ディファレンシャルモードの等価回路には、ライン間に入る X コンデンサと、CMC の漏れインダクタンスが残ります(図3)。

図3 ディファレンシャルモード等価回路
理想的な CMC は、2 つの巻線の磁束が打ち消し合うため、ディファレンシャルモードに対してインダクタンスを持ちません。現実には漏れ磁束による漏れインダクタンスが存在し、この漏れインダクタンスと X コンデンサによって、ディファレンシャルモードでも LC フィルタが構成されます。ただし漏れインダクタンスは副次的なものであり、データシートには記載されないことがほとんどです。
一方で X コンデンサは、静電容量を大きくするほど減衰量が大きくなります。漏れ電流の制約を受けないため、静電容量を選べる幅は Y コンデンサより広くなります。現実的にはサイズと減衰量のトレードオフの中で、サイズの許す範囲で静電容量の大きいコンデンサが使用されています。
ノイズフィルタの選定手順
ノイズフィルタの選定作業は、定格電流と段数の 2 段階で進めます。
定格電流
定格電流は、ノイズフィルタを取り付ける装置の消費電流によって決まります。ただし定格電流によるノイズフィルタの性能の違いについて知っておくべきです。
定格電流の大きい CMC はインダクタンスが低く、定格電流の小さい CMC はインダクタンスが高くなります。その理由は、定格電流が大きいほど巻線が太くなり、巻ぶとりによって巻数を稼ぐことができないためです。
このため定格電流の大きい製品は、同じ段数であってもコモンモードの減衰量が小さくなる傾向があります。
段数
CMC の段数は、周波数範囲と減衰量の 2 つの観点で選定作業を進めます。
減衰が得られる周波数範囲は、2 つの CMC の定数の組み合わせ方で変わります。2 つのうち一方が高インダクタンス、もう一方が低インダクタンスの組み合わせの場合には、広い周波数範囲で良好な減衰量が得られます。
反対に2 つの CMC が同じ定数であれば、周波数範囲はそれほど変化せずに減衰量が増加します。これは特に 1MHz 以下の低い周波数帯でその差が大きくなります。
多くのノイズ対策の場面では 1 段構成のノイズフィルタで十分対策できますが、インバータや電力変換装置の広帯域・高レベルなノイズ対策においては、2 段構成のノイズフィルタの使用が推奨されています。
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