この記事ではエンジャーさんよりOWON製 ORF5060をもとに近傍界プローブの原理と活用方法について解説しています。
近傍界測定の基礎
電子機器の開発において、EMI(電磁妨害)試験の限度値を超えてしまうノイズトラブルは避けて通れない課題です。規格試験でNGが出た際、基板のどこが原因なのかを特定し、効率的に対策を進めるためには近傍界測定の技術が欠かせません 。
遠方界と近傍界
ノイズ測定には大きく分けて遠方界と近傍界の2種類があります。 遠方界測定は電波暗室などでアンテナを供試体から3mや10m離して行われる、いわゆる規格試験です 。これは製品全体の放射レベルを評価するのには適していますが、基板上のどの部品や配線がノイズ源であるかを特定することは困難です。 一方で近傍界測定はプローブを基板に数ミリまで近づけて測定します。これによりノイズ発生源をピンポイントで特定できます。
ORF5060の優位性
OWON製のORF5060は電界プローブと磁界プローブがセットになっており、1MHzから6GHzという広帯域をカバーしています。

図 OWON製のORF5060の外観
このセットがあれば、大まかなノイズ源の絞り込みから配線レベルの微細な箇所の特定までを一気通貫で行えるため、試行錯誤の回数を劇的に減らすことが可能です。
近傍界プローブの原理
ノイズ対策の効率化には電界プローブと磁界プローブがそれぞれ何を捉えているのかという物理現象の理解が重要です。
電界プローブの原理
電界プローブは電圧の変化(電位差)によって生じる電界を検出します。先端が尖った形状をしており、容量性結合を利用してノイズを捉えます。

図 電界プローブの原理
容量性結合では向きの影響は受けづらいため、電界プローブとノイズ源との距離に応じて検出レベルが変化します。スイッチング素子のドレイン端子や、高速信号ラインの電位変動をチェックする際に有効です。
磁界プローブの原理
磁界プローブは電流によって発生する磁束を検出します。先端にループアンテナを搭載しており、ループを鎖交する磁束の量に応じて検出レベルが変化します。

図 磁界プローブの原理
磁界プローブはループの輪の中に磁力線を通すことでノイズを検出します。つまり配線を流れる電流の向きに対して、ループの面を沿わせる(平行にする)と最大感度になります。逆にループを90度回転させ、ループ面が電流と直交すると信号は最小になります 。加えて磁界プローブと電流が流れる配線間の距離が短いほど検出レベルが高くなります。この磁界プローブは電源ラインのリターン電流や、ICの電源ピン付近の電流集中を調べるのに適しています。
近傍界プローブの使い分け
実用的にはほとんどの場面で磁界プローブを使用します。この理由は磁界プローブの方がノイズ源以外からの干渉を抑制できるからです。まず磁界プローブの先端はシールデッドループが形成されており、このシールドによって電界による干渉が抑制されます。加えて磁界プローブはループに磁界を鎖交させる必要があるため、電流の向きが異なる他の磁界の影響も受けにくくなっています。またループ径が小さいほど距離分解能が高くなるため、より詳細にノイズ発生源を特定しやすくなります。
一方で電界プローブもヘッドサイズを小さくすることで距離分解能が高まりますが、向きの影響を受けないため様々な方向から干渉を受けます。さらに電圧変動はプリント基板上の様々な箇所で発生しているため、距離分解能を高くしてもノイズ源の位置を正確に特定することは難しいのが実情です。
ORF5060シリーズのスペック
最近の高速デジタル回路は、数百MHzから数GHzの高調波ノイズが発生します。ORF5060シリーズはすべて6GHzまで対応しているため、Wi-Fi(2.4GHz/5GHz帯)などの通信回路を含む最新機器のデバッグにも十分対応可能です。そしてORF5060シリーズのセットに含まれる各プローブには、それぞれ得意な役割があります。
|
型番 |
種類 |
分解能 |
主な用途 |
|
ORF5060-001 |
電界 |
3mm |
高速信号ラインの電位変動特定 |
|
ORF5060-002 |
磁界 (小) |
13mm |
回路・部品単位のノイズ源特定 |
|
ORF5060-003 |
磁界 (中) |
30mm |
ブロック・ユニット単位の探索 |
|
ORF5060-004 |
磁界 (大) |
45mm |
ざっくりとしたノイズ分布の調査 |
図 各プローブのスペックと用途
電界プローブ:ORF5060-001
ORF5060セットに含まれる電界プローブはORF5060-001だけです。ORF5060-001は先端が非常に細く、3mmという高い距離分解能を持ちます。基板上の密集した配線の中から、特定の1本を特定したい場合に適しているとされます。

図 ORF5060-001の周波数特性
磁界プローブ
ORF5060セットにはループ径が異なる3種類の磁界プローブがあります。ループ径が大きいほど検出感度が高くなり、小さいほど距離分解能が高くなります。そのためループ径の大きいタイプでまずはブロック単位でノイズ発生源を探り、ループの小さいプローブで回路単位や部品単位でノイズ発生源を見つけ出す、というように使い分けます。

図 ORF5060-002(ループ径:小)の周波数特性

図 ORF5060-003(ループ径:中)の周波数特性

図 ORF5060-004(ループ径:大)の周波数特性
ノイズ探索のワークフロー
ここでは効率的なデバッグを実現するための、具体的な手順を紹介します。今回はORF5060セットのうち磁界プローブを使用します。
ブロック単位の調査
まずはループ径の大きい磁界プローブを使って、ざっくりとノイズ源を調査します。

図 ORF5060-004でノイズ発生源を探索している様子
磁界プローブは先端の向きによってレベルが変化します。そのためこの性質をうまく使えれば、ノイズが流れている電流の向きも見極めることができます。この向きの影響については、実際にプローブの向きによってノイズレベルが変化する様子を確認してみると、ノイズ電流の向きというのがよくわかります。
部品単位の調査
ループ径の大きいプローブでおおよそのノイズ源が特定できれば、ループ径の小さいプローブに変更してノイズ発生源を特定します。磁界プローブを90度回転させるだけで測定レベルが20dB以上変わることもあるため、プローブの向きを工夫して最大値を探索することが重要です 。

図 ORF5060-002でノイズ発生源を探索している様子
ここではプリント基板中央のFPGAあたりでノイズレベルが最も高い値を示しているため、そのあたりを重点的に測定していきます。するとFPGAの下側のあたりで最も高い値を示し、さらに細かく調査すると抵抗「R16」「R17」「R18」に接続されている伝送線路で最も高いレベルを示していることがわかりました。
ノイズ対策のアイデア
ノイズ発生源が特定できれば、いくつかのノイズ対策手法を試すことができます。
ハードウェア対策
この例ではFPGAに接続されている抵抗(ダンピング抵抗)の抵抗値の値を大きくして、波形を鈍らせるといった対策が考えられます。このようにノイズ源をきちんと特定できれば、闇雲にノイズ対策するよりも遥かに効率よくノイズ対策を完了させられます。
ソフトウェア対策
またノイズ対策ではハードウェアを中心に対策手法を考えてしまいがちですが、実はソフトウェア的にノイズを低減できることもあります。ソフトウェア的な対策としては、例えばスペクトラム拡散(SS:Spread Spectrum)の設定を有効化してエネルギーを分散させる、あるいはGPIOのドライブ能力(出力電流)を一段階下げることで、信号の立ち上がりを緩やかにし、高調波ノイズを抑制するといった手法が考えられます。
このあたりのノイズ対策のアイデアもノイズ源を明確に特定できてこそ生まれてくるものです。ノイズ対策にかかる工数はもちろん、部品費用を削減するという意味でも近傍界プローブを使ったノイズ源の調査は有用といえます。
まとめ
ノイズ対策は見えない敵との戦いですが、OWON ORF5060のような近傍界プローブセットを使うことで、その敵を見える化できます 。はじめのうちはまずは様々なプリント基板を走査してみて、プローブの向きや距離による波形の変化に慣れることから始めてみてください。それが最短ルートでノイズ問題を解決するエンジニアへの第一歩となるはずです。
デモ機レンタルサービス
https://tm-co.co.jp/contact/
© 2026 T&Mコーポレーション株式会社
この記事の続きを読むには無料会員登録またはログインが必要です。






















T&M
即納ストア





















































































































































































































